新しいベントレー「ブロワー」が90年ぶりに完成
- べントレーマリナーが「ブロワー・コンティニュエーション・シリーズ」のプロトタイプを初公開
- 1930年以来となる新たなブロワーの呼び名は「カーゼロ」
- 戦前モデルの世界初のコンティニュエーション・シリーズ
- 約2千のパーツを一つ一つ設計し、手作業で製作
- カーゼロの設計・製作に要した時間は4万時間
- 当時の図面や治工具を使い、社内のスペシャリストと英国内のサプライヤーがすべてのパーツを手作りで完成
- ヘンリー”ティム”バーキン卿のレースカーであり、ベントレーが所有する1929年製4½リッタースーパーチャージャーをレーザースキャンした3D CADモデルのデータをもとに製作
- 最高速での走行試験を含め、カーゼロの耐久性試験がスタート
- 顧客のために製作される12台の復刻モデルはすでに完売
(2020年12月9日、クルー) ベントレーマリナーが4万時間をかけて製作した新しいベントレー「ブロワー」が本日公開されました。ブロワーの新たな製作は90年ぶりとなり、「ブロワー・コンティニュエーション・シリーズ」の復刻生産に先駆けて発表されたこのプロトタイプは「カーゼロ」と名付けられました。
カーゼロに続いて製作される12台の復刻モデルはすでに完売。その製作には、1920年代後半にオリジナルブロワーが製造されたときの図面と治工具が使用されます。オリジナルモデルはヘンリー”ティム”バーキン卿のレースチームのために4台が製造されました。4台のチームカーの中でベントレーが所有する2号車(シャシー番号「HB3403」、エンジン番号「SM3902」、ナンバー「UU5872」)を、このコンティニュエーション・シリーズのために分解し、一つ一つの部品を残らずレーザースキャンするところから、このプロトタイプの製作は始まりました。
収集したデータをもとに、新たなブロワー用のパーツ1846個が設計され、手作業で製作されました。ただし、そのうち230個はアッセンブリーであり、その中にはエンジンも含まれますので、ねじやインテリアトリムなどの個々のパーツを含めると、実際には数千のパーツが製作されたことになります。こうしたパーツやアッセンブリーは、ベントレーマリナープロジェクトチームのエンジニア、職人、テクニシャンが英国内のスペシャリストやサプライヤーらと協力して作り上げました。
カーゼロは12台の復刻モデルに先駆けて、開発・試験用に製作されたプロトタイプであり、今後数か月かけて耐久試験と性能試験が実施されます。エクステリアはグロスブラック、インテリアはブリッジ・オブ・ウィアー社製のオックスブラッドと呼ばれる赤いレザーで彩られています。このカーゼロの発表に伴い、ベントレーモーターズがクルーに建設した新施設も初公開されました。新施設は1946年からベントレー本社が置かれているピムズレーン一帯の大規模な工事を含め、本社敷地を拡張する形で建設されたもので、将来に向けて重要な役割を果たすことになります。
発表会でカーゼロのドライバーを務め、ピムズレーンを走行したベントレーモーターズのエイドリアン・ホールマーク会長兼CEOは次のようにコメントしています。
「本日はブロワー・コンティニュエーション・シリーズの初公開という大切な日であると同時に、ベントレーモーターズにとっても記念すべき日となりました。90年ぶりに製作されたブロワーを運転できたことは大変光栄であり、ティム・バーキン卿もこのクルマの出来栄えに満足してくれることと思います。このクルマのクラフトマンシップは実に素晴らしく、一世を風靡したオリジナルブロワーの走りが正確に再現されていたことをご報告させていただきます」
「このブロワーでピムズレーンを走行でき、喜びもひとしおです。ベントレーはこのたび、ピムズレーンの本社敷地を拡張し、新施設を建設いたしました。本社の拡張はベントレーの未来にとっても、クルーという地域にとっても大変意味のあることです。新施設は明るい未来に向けた具体的戦略の一つであり、サステナブルなラグジュアリーモビリティにおける世界的リーダーを目指していく上で、重要な足がかりとなります」
ブロワー・コンティニュエーション・シリーズはベントレーマリナーの「クラシック」部門が顧客のために手がけた初めてのプロジェクトです。マリナーにはそのほかに、特別限定車「バカラル」を製作した「コーチビルド」部門とコンチネンタルGTマリナーを製作する「コレクション」部門があります。
カーゼロを生んだ設計者と職人たち
カーゼロの製作は、オリジナルブロワー4台の製造時に使用された設計図や下書き、当時撮影された写真を徹底的に分析することからスタートしました。次に取り掛かったのは、ベントレーが所有する世界一貴重といっても過言ではないベントレーの一台、ブロワー2号車の分解でした。フレームとパーツをレーザースキャンし、その精密なデータを基に、CADによる完璧なデジタルモデルが完成しました。
続いて、各パーツを製作する職人たちが集められました。そうして製作されたパーツを使い、ベントレーマリナーが形にしたのがカーゼロです。
マリナーのディレクターであるポール・ウィリアムズ氏は次のようにコメントしています。
「この数か月、カーゼロが完成していく様子を驚きと感動をもって見守ってきました。最新のデジタル技術に命を吹き込んだのは本物の匠の技であり、多くのパーツには1920年代の製造方法が用いられています。このように新旧の技を組み合わせることがブロワーの製作には不可欠であったため、ベントレーのエンジニアをも唸らせる高いスキルをお持ちのサプライヤーの皆様にご協力いただきました。私たちが作成した部品の図面や仕様書は数千枚に及びましたが、完成した部品がマリナーに納品され、ブロワーが徐々に形になっていくのを目の当たりにすると、すべての苦労が報われる思いでした。現在はカーゼロの試験を実施中です。その後、お客様のために12台の復刻モデルの製作に取り掛かります」
ベントレーマリナーはブロワー・コンティニュエーション・シリーズの製作当初から、パーツを外部に依頼することを計画しており、今回のプロジェクトでは、何世代にもわたって伝統的技術を継承している英国きってのスペシャリストらに協力を仰ぎました。
シャシーはイスラエル・ニュートン&サンズ社が極厚鋼板を手作業で成形し、熱間によるリベット留めによって完成させました。同社はダービーのほど近くに拠点を置き、蒸気機関車のボイラーやトラクションエンジンの製作を手掛けてきた創業200年の歴史ある会社で、伝統的工法による金属の鍛造・成形加工を得意としています。
ブロワーの主要パーツのいくつかを忠実に再現したのはビスターヘリテージに拠点を置くビンテージ・カー・ラジエター・カンパニー。鏡面仕上げが施されたニッケルシルバー地金製ラジエターシェルや、スチールと銅板を打ち出し成形したフューエルタンクなどを同社が担当しました。この会社はビンテージカーのラジエターやコンポーネントの製作・復元におけるトップメーカーであり、最高レベルのクラフトマンシップとオーセンティシティを誇り、今回のような複雑かつ重要なパーツの製作に欠かせない存在です。
リーフスプリングとシャックルは、ウェストミッドランズにあるジョーンズ・スプリング社のオリジナル仕様です。鍛冶屋をルーツとし、75年近い歴史を持つ会社です。
ブロワーのシンボルであるヘッドライトは、シェフィールドにあるビンテージ・ヘッドランプ・レストレーション・インターナショナル社によって再現されました。親子経営のこの会社は銀細工で知られ、オリジナルの仕様にしたがってビンテージデザインのヘッドランプを製作するその技術は世界的に高い評価を得ています。
アッシュフレームはラドローにあるロマックス・コーチビルダーズ社が製作し、クルーのマリナートリムショップにて、職人らが最終仕上げを施しました。ブロワーのボディは、25メートルに及ぶ人工皮革のレキシン(Rexine)で覆われています。ボディの内装はマリナーの名匠の手によって仕上げられました。カーゼロのグロスブラックのエクステリアに、ブリッジ・オブ・ウィアー社製のオックスブラッドと呼ばれる赤いレザーと、それにマッチした内装が映えます。オリジナルのブロワーと同じく、シートの中身には計10キロの天然馬毛が使用されています。
アイコニックなエンジンに新たな命を吹き込む
カーゼロのエンジンは、W.O.ベントレー自らが設計した4½リッターで、今回はワトフォードにあるNDR社などの協力を得て新たに製作されました。このエンジンにはアルミニウムピストン、オーバーヘッドカムシャフト、4バルブ、ツインスパークイグニッションなど、1970年代のスポーツカーエンジンもうらやむような革新的技術が数多く採用されています。アムハースト・ヴィリヤースの設計によるルーツ式スーパーチャージャーも新たに機械加工され、この4½リッターエンジンに搭載されています。今回製作されたエンジンは、1920年代後半にバーキン卿のレースチームのために製作された4台のブロワーのエンジンを忠実に再現したもので、クランクケースにマグネシウムが使用されています。
このエンジンの組立と並行し、100年近く前に設計されたエンジンをテストできるよう、クルー本社にあるエンジンテストベッドが改造されました。このエンジンテスト設備は1938年の工場建設時からベントレーに存在していたもので、第二次世界大戦中には航空機用エンジン「マーリンV12」の試運転やパワーテストに使われていました。マーリンV12は「スピットファイヤ」や「ハリケーン」といった戦闘機に搭載されたエンジンです。
まずは、ブロワーのフロントシャシーのレプリカが作成されました。そのレプリカにエンジンを格納することによって、コンピューター制御のエンジンダイナモメーターに取り付けできるようにしたのです。さらに、ベントレーのエンジニアがエンジンをモニターし、正確なパラメーターでエンジンを作動できるようにするため、エンジンの測定と制御に使う新しいソフトウェアの作成とその動作確認も行われました。ブロワーのパワートレインは、現在のベントレーに搭載されているエンジンとはサイズも形状も全く異なるため、再現されたエンジンをテストベットに取り付ける際には、マーリンエンジンのテスト用としてベントレーに保管されていた当時の取付具も多数活用されています。
完成したエンジンは車両に搭載される前に、テストスケジュールにしたがって試運転が行われました。
次のステップへ
カーゼロは今後、実世界での耐久試験に入ります。走行時間と走行速度を徐々に増加させながら、より厳しい条件下で機能性と耐久性を確認していくことになります。このテストプログラムは8、000キロのトラック走行を含め、計35,000キロを達成するように計画されており、北京・パリモーターチャレンジやミッレミリアなどのクラシックカーラリーでの走行を想定して行われます。勇敢なドライバーによる最高速での走行試験も予定されており、最有力候補としてエイドリアン・ホールマーク会長兼CEOの名前が挙がっているとのことです。