完全な測定:顕微鏡レベルの目を持つベントレーの社内計測チーム
- 26名の強力なチームが、工場でフル稼働した状態で各ベントレー モデルのすべての
コンポーネントを計測することが可能 - フライングスパーのボンネットの格納式マスコット・システムの公差は15mm以下
- 最新式のツールでミクロン単位の計測が可能
- +/-0.5°C刻みで調整可能なクライメートコントロール
- 研究室には高精度レーザーや3Dカメラ・モデルリングを設置
- 寸法基準としてアルミニウム無垢材による「キュービング」フライングスパーを使用
ベントレーのクルー工場の中央奥深くには、大きくて風通しがよく、空調が完備されたワークショップ(作業場)があります。政府のロックダウンがなくても、ビジターがこの場所を目にすることはありません。ここには、宇宙機関の施設や大学の科学研究室で見られるような精密機器が所狭しと並んでおり、ここで計測担当責任者のマイケル・ストックデールと25人の同僚が、ベントレーの様々な部位を、最高水準の精度で計測しています。
計量学は計測を科学する学問であり、ベントレーのすべての車両の品質、性能、耐用年数
を保証するには、各部品が一貫して正確な寸法で製造されていなければなりません。ストックデールと同僚たちは、最も小さなワッシャーからボディ・パネル、インテリア・トリムに至るまで、ベントレーが製造する各モデルのすべての部品を計測し、規定されている厳しい公差から逸脱した部品がないようにしています。「当社には、レザーのしわからシリンダー・ボアの表面に至るまで、すべてをミクロン単位で計測できるツールがあります。」ストックデールはこのように解説しています。
部品を一つ一つ計測した後、仮組みしてまた計測し、さらに完成車の一部としてもう一度計測します。このように、計測チームはほぼ完璧に近い再現性を確保する上で重要な役割を果たしています。
フライングBの正確無比な振り付け
複数の構成部品をあらかじめ組み立ててから車両に取り付ける場合、最高水準の寸法精度で計測し、同じ精度で実行することが極めて重要です。例えば、フライングスパーのボンネットを飾る格納式のフライングBマスコットは、一連の複雑な動きを構成する各コンポーネントが一貫した寸法精度で近接しているためスムーズに展開・格納されます。このマスコットは、ドライバーが車両に近づくとキーレス・エントリー・システムと連動してライトアップされますが、事故の際は自動的に格納されなければなりません。この正確な振り付けを実現し、台座の中央にきっちりと収まるようにするため、フライングBシステムの各部品の公差はわずか0.15mmとされています。
赤血球ひとつよりも小さい寸法公差
一般の人は「髪の毛一本の太さ」という言葉を、想像できる最も小さな尺度の単位として使いますが、ベントレーの計測チームにとって、この言葉はあまりにも不正確です。ストックデールが指摘するように、人間の髪の毛一本は17ミクロン~150ミクロン以上の太さになることがあります。一方、計測部門には0.5ミクロンまで測ることができる機器があります。
1ミクロンは1メートルの100万分の1であり、人間の赤血球の直径は5ミクロンです。ベントレーのコンポーネントすべてを1ミクロン未満の公差で計測する必要はありませんが、いくつかそのレベルの箇所があります。
ストックデールは、一例としてベントレーの新型フライングスパーに動力を供給する世界で最も先進的な12気筒エンジンである6.0リッターW12エンジンの心臓部にあるクランクシャフトを挙げています。最高6,000rpmで回転するクランクシャフトは、ピストンが発生させる巨大な下向きの力を回転運動に変換して車輪に動力を与えます。肉眼で見ることは叶いませんが、クランクシャフトを支える12個の機械加工されたベアリング・ジャーナルのそれぞれの表面には微細な溝が刻まれており、顕微鏡レベルの薄さのオイル膜を保持しています。
計測チームは高精度のパーソメーター(表面仕上げを計測するためのツール)を使用して、
これら微細な溝が規定の公差内に収まっていることを確認しており、これにより各W12エンジンがオーナーの期待する強大なパワーを生み出し、耐用年数の全範囲にわたる耐久性を保証しています。
アルミ無垢材から削り出されたフライングスパー
計測チームは、顕微鏡レベルの精度で個々の表面や構成部品を計測するだけでなく、車両
全体を計測します。この部門には「キュービング」と呼ばれる基準車両があります。これは、無垢のアルミニウム材から削り出された模型であり、車両全体のパネルや内装のコンポーネントを計測する際のテンプレートとして使用します。キュービングのフライングスパーは、高精度のデジタルカメラを使用してボディを1ミリ単位でスキャンし、車両の完全かつ正確な地図として作成された理想的なフライングスパーであり、他のすべての車両の計測基準となります。
ストックデールは次のように解説しています。「試作段階でグリルとボンネットの間のパネル間の隙間が1mmも過大であるという問題が発生したとします。原因はグリル側にあるでしょうか、それともボンネット側でしょうか?キュービング基準車両はCADデータの正確な寸法に合わせて作られているため、その答えを提供してくれます。」
光学レーザーでスキャン
素材が異なれば計測技術も異なります。フライングスパーのドアやリヤ・クォーターパネルに
施された独自の3次元ダイヤモンド・キルト・レザー・インサートは、表面に触れてしまうと読み取りの際に歪みが生じるため、接触型の機器では計測できません。その代わりに光学レーザースキャナーを使ってダイヤモンド・パターンのひとつひとつの正確な輪郭をチャート化してチェックします。
フライングスパーのキャビンでは、すべてのシートに機能性が備わっているという点で新鮮な挑戦でした。リヤ・シートだけでも14段階の調節ができ、5種類のマッサージモードを備え、ドア側の2つのシートにはヒーターとベンチレーションが装備されています。ワンピース式ヘッドライニングの違和感のないフィット感に始まり、ウッドトリムや豪華なレザー内装に至るまで、木材、金属、繊維と皮革など、さまざまな素材の間の公差の緻密さがすべてに影響を及ぼしています。
精密な温度管理
材料は、暖まると膨張し、冷えると収縮するため、一定の基準温度下で計測することが不可欠です。計測エリア内では、空調機器により20℃の安定した温度に保たれています。しかし、
最高レベルの精度が求められる構成部品の場合は、高精度計測エリアと呼ばれる社内の
聖域があり、専用の空調システムによって温度が0.5度以上変動することがないようにして
います。このエリア内には3つの巨大な花崗岩ブロックがあり、正確に読み取るために不可欠
な究極の安定性を実現するため、ここに部品を固定します。しかし、その前に、計測する構成
部品を文字通り大気中に晒しておかなければなりません。「エンジン・ブロックのような大きな構成部品は、その中心部分まで20℃になっていなければいけません。そのため1週間に
わたって一定の温度下に晒さなければならない場合があります。」ストックデールはこのように説明しています。
目に見えない貢献
クルーに来たビジターが計測部門まで訪れることはないでしょうし、フライングスパーやコンチネンタルGT、ベンテイガのオーナーが、自分のクルマに搭載されている計測チームの手仕事について指摘することもないでしょう。しかし、ベントレーの外観、性能、耐用年数は、それぞれの構成部品が理想的な精度で計測されているかどうかにかかっています。そのため、計測チームは寸法の完全性を追求し続けるための隠れたヒーローであり、管理者なのです。工場から出荷されるすべてのベントレーは、計測者たちの目に見えない貢献に称賛を贈ります。